これまでの記事では、電子契約の制度と技術について解説した。電子契約は契約書を電子データとして作成し、電子署名などの仕組みによって契約を締結する方式であり、その法的基盤は民法の契約原理と、電子署名の効力を定めた電子署名及び認証業務に関する法律によって支えられている。また電子文書の保存については電子帳簿保存法が重要な役割を果たしていることも確認した。
電子契約の普及によって契約締結の方法は大きく変化したが、DX時代においてさらに重要になっているのが「契約管理」である。契約は締結して終わりではない。契約期間の管理、更新や解約の判断、義務履行の確認、コンプライアンス対応など、多くの管理業務が契約締結後に発生する。企業が持つ契約の数が増えるほど、この管理業務は複雑になる。
今回は、DX時代の契約管理をテーマとして、クラウド契約管理システム、契約データの活用、コンプライアンスとの関係について解説する。
契約管理とは何か
契約管理とは、企業が締結した契約を適切に把握し、契約内容に基づく権利義務を管理する活動を指す。契約は企業活動のほぼすべての場面に関係している。顧客との取引、仕入先との契約、業務委託契約、ライセンス契約、不動産賃貸借契約など、企業は日常的に多数の契約を締結している。
契約管理の基本的な目的は、契約リスクを適切に管理することにある。契約書には多くの権利義務が定められているが、その内容を把握していなければ企業は自らの権利を行使することも、義務を適切に履行することもできない。例えば契約更新の期限を見落とすことで不利な条件の契約が自動更新されてしまう場合や、解約通知の期限を過ぎてしまう場合など、契約管理の不備は企業にとって大きな損失につながる可能性がある。
従来の契約管理は紙の契約書を中心として行われてきた。契約書はファイルやキャビネットに保管され、必要な場合には担当者が手作業で検索するという方法が一般的であった。しかし企業の契約数が増加し、取引関係が複雑化するにつれて、この方法では管理が困難になってきた。
DX時代の契約管理は、このような課題を解決するためにデジタル技術を活用することを特徴としている。
契約管理のライフサイクル
契約管理を理解するためには、契約のライフサイクルという考え方が有用である。契約は単に締結されるだけではなく、いくつかの段階を経て管理される。
契約のライフサイクルは概ね次のような段階に分けられる。
| 契約の段階 | 内容 |
|---|---|
| 契約作成 | 契約書のドラフト作成 |
| 契約交渉 | 条件の調整・修正 |
| 契約締結 | 契約の成立 |
| 契約履行 | 契約内容に基づく業務実施 |
| 契約管理 | 契約期間や条件の管理 |
| 契約更新・終了 | 契約の更新または終了 |
このように契約は長い期間にわたって管理される対象である。特に長期契約では契約期間が数年に及ぶことも珍しくない。DX時代の契約管理では、このライフサイクル全体をデジタル化することが重要なテーマとなっている。
クラウド契約管理システム
契約管理のデジタル化を支える中心的な技術がクラウド契約管理システムである。クラウド契約管理システムとは、契約書をクラウド上で保存・管理し、契約情報をデータとして活用できるようにするシステムである。
このシステムでは契約書が電子データとして保存されるだけでなく、契約情報がデータベースとして管理される。契約の当事者、契約期間、契約金額、更新期限などの情報を登録することで、契約の検索や分析が容易になる。
クラウド契約管理システムの代表的な機能には、契約書の全文検索、契約期限のアラート機能、契約情報の分析機能などがある。例えば契約更新期限が近づくと担当者に通知が送られる仕組みを設けることで、契約更新の見落としを防ぐことができる。
このような機能は単なる業務効率化にとどまらない。契約情報をデータとして管理することで、企業は契約リスクを可視化することができるのである。
契約データの活用
DX時代の契約管理では、契約書を単なる文書として扱うのではなく、データとして活用する視点が重要になっている。契約書には企業活動に関する多くの情報が含まれている。取引条件、価格、責任分担、知的財産権の扱いなど、契約書は企業のビジネスモデルを反映した重要な情報資源である。
契約データを分析することで、企業はさまざまな知見を得ることができる。例えば取引条件の傾向を分析することで、自社にとって不利な契約条件が存在しないかを確認することができる。また契約金額のデータを分析することで、取引の規模や収益構造を把握することも可能になる。
近年ではAIを活用して契約書の内容を自動解析する技術も登場している。AIは契約書の条文を読み取り、重要な条項やリスク要因を抽出することができる。このような技術は契約レビューの効率化にも役立つと期待されている。
契約管理とコンプライアンス
契約管理は企業のコンプライアンスとも密接に関係している。コンプライアンスとは、企業が法令や社会規範を遵守することを指す。契約書には多くの場合、法令遵守に関する規定が含まれている。
例えば個人情報を扱う契約では、個人情報保護法への対応が求められる。また下請取引に関する契約では、下請代金支払遅延等防止法の規定に注意する必要がある。契約管理が適切に行われていなければ、企業は知らないうちに法令違反のリスクを抱えることになる可能性がある。
さらに近年では企業の社会的責任が重視されるようになり、契約書においても環境問題や人権問題への配慮が求められるようになっている。いわゆるESGの観点から、取引先に対しても一定の倫理基準を求める契約条項が増えている。
このような状況において契約管理は単なる事務作業ではなく、企業のリスク管理の重要な要素となっている。
契約書保存と電子帳簿保存法
電子契約が普及するにつれて、契約書の保存方法も重要な課題となっている。企業が電子データとして契約書を保存する場合には、電子帳簿保存法の要件を満たす必要がある。
電子帳簿保存法は、税務関係書類を電子データとして保存する場合のルールを定めた法律である。契約書は取引の証拠となる重要な書類であり、適切な保存が求められる。電子保存を行う場合には、データの改ざん防止や検索機能の確保などが必要とされる。
クラウド契約管理システムの多くは、これらの要件を満たすように設計されている。そのため企業が電子契約を導入する際には、契約管理システムと法令要件の関係を理解しておくことが重要である。
契約管理体制の整備
DX時代の契約管理を成功させるためには、技術だけでなく組織体制の整備も重要である。契約管理は法務部門だけの仕事ではなく、営業部門、購買部門、経営企画部門など多くの部門と関係している。
企業は契約管理のルールを明確にし、契約書の作成、レビュー、締結、保存のプロセスを統一する必要がある。また契約情報を共有する仕組みを整備することで、組織全体で契約リスクを管理できるようになる。
このような体制を整備することによって、企業は契約を単なる取引の記録ではなく、経営資源として活用することができるのである。
まとめ
本稿ではDX時代の契約管理について解説した。契約管理は契約締結後の権利義務を適切に管理するための重要な活動であり、企業のリスク管理と密接に関係している。
DXの進展により、契約管理はクラウド契約管理システムによって大きく変化している。契約書は単なる文書ではなく、企業活動を分析するためのデータ資源として活用されるようになっている。また契約管理はコンプライアンスとも密接に関係しており、企業は法令遵守の観点からも契約情報を適切に管理する必要がある。
電子契約の保存については電子帳簿保存法の要件が重要であり、企業は法制度を理解したうえで契約管理システムを導入する必要がある。
